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 28歳の頃(1991年)音楽誌を中心に撮影をしていた。ギターマガジンの依頼で寺内タケシ(ギターリストの中では神格化している人物。日本最初のギターリストとも言われている)の取材にコンサート会場へ行った。楽屋に着くと早速寺内さんに挨拶し撮影準備をした。インタビューも終え「撮影しましょう」と編集者が促しても「もうちょっと後で」と言ってスタッフと談笑している。とりあえず寺内さんのギターの物撮りをした。一見普通のギターだが、裏を見てビックリした。ナント!観音様が彫ってある。ギターの神様の持つ道具は違うのだ。

 忙しくもないのに撮影には応じてくれず僕を無視している。編集者も最初やきもきしていたが開始5分前になり「コンサート後の撮影だね」と諦め、僕は機材をおろし煙草を吸い珈琲を飲んでいた。「客電落とします」スタッフの声が聞こえ会場は暗くなった。闇の中、会場からはドラムとベースの前奏が始まった。ズン、ズ、ズ、ズン、ズ、ズ…いつものオープニングテーマ曲だ。寺内さんを見るとギターを抱え、顔は真っ赤になりテンションが最高潮に達している。立ち上がり、舞台に行きかけ止まった。突然僕の方を振り向き「撮れ!」全身に電気が走り、胃は縮み上がった。僕は立ち上がり、慌ててカメラを握った。寺内さんはバックシートの前に仁王立ちしている。3枚撮ったところで寺内さんが「いいか?」とひと言だけ言った。「はい」と言うしかなかった。…良くはない。36枚以上撮るのが普通だ。後日写真を見るとギターを持つ鬼が写っていた。寺内さんはそういうところを撮って欲しかったのか。それとも若いカメラマンに気合いを入れ、鍛えたかったのか。いずれにしろ、僕は今まで経験したことのない緊張と感動を覚えた。